第69話:黒帯再挑戦記=その2=

門間理良の黒帯への階段

今回の昇段審査にあたって立てた戦略は「ポイントの有効活用」、戦術は「省エネ」であった。

前回の昇段審査(第33、34話参照)で私が頂いたポイントは2.5と発表されていた。このポイントを利用すると75%ルールが適用されるから、6人組手の私の昇段必要点数は4.5となる。

すなわち前回は6試合で3.5ポイントが昇段必要ポイントだったが、今回は2ポイント取れれば昇段なのである。

これを利用しない手はない。

もちろん格好良く勝ち越ししたい気持ちは強いのだが、焦る必要は全くないとも自分に言い聞かせていた。

焦ることで体力を余計に消耗したり、自分の組手ができなくなったりしては元も子もないからである。

また、今回は前回よりも事前の稽古は足りていない。
スタミナも増えている自覚は全くない。

となると、戦い方は「省エネ」とならざるを得ない。

これは前回の昇段審査の折、最初からフルスロットルでいった結果、4試合目にはかなり消耗し息も絶え絶えになった経験に照らして導き出したものである。

「精神的にも組手的にも焦らずにいく」と心に決めていた。

審査前夜、準備というほどのことはなかったが、道衣など一式をそろえた。前回は青道衣を着て勝てなかったから今回は白道衣でいくことにした。

面にも曇り止めをしっかり塗ってきれいに拭いた。夜は酒を飲まずに早めに寝た。

その晩見た夢はからんできた不良2人をぶちのめすというもので、やはり精神的に高ぶっていることが自覚されたが、夢とはいえ2勝しているから縁起がいいとも思うことにした。

翌朝はゆっくり起きて自宅で11時頃遅めの朝食を取ったが、結局タイミングが合わず、昼飯は食べなかった。
前回はカーボンローディングだと言いながら、スパゲッティなどを意識して2、3日前から食べていたが、今回はなにもしていない。

しかも、ややすきっ腹で審査を受けることになりそうだったが、細かいことは気にしないことにした。

居間で今日の戦術に基づいた動きを何度か確認した。

なんのことはない。

両腕で顔面をガードしながら、後ろ足の前蹴りで相手をストッピングするというあれである。

もうそろそろ自宅を出ようかという14時過ぎに深草さんから電話をいただいた。

「緊張しますね、いやですね~」

などと言いながら

「お互い頑張りましょう 😡 」

と励ましあって道場に向かった。

後5時間もしたら全てが終わって結果が出ていると思うと不思議な気分だ。

小田急線に揺られながら、なおも戦術の確認をしつつ、

「今日は総本部から一体誰が昇段・昇級審査を受けるのだろうか?」

とぼうっと考えていた。

すぐに頭に浮かんだのは松田先輩と植竹さんだった。

松田先輩は最近のマススパーでずっと面をかぶったまま基本ルールの相手もしていたので、
昇段の準備なのだろうと思っていたし、前回の審査で本当は昇段していてもおかしくなかったとも聞いている。

植竹さんも今回に期するものがあることは本人の口から伺っていた。

けっこうぎりぎりに道場についた時にわかったのは、今回昇段に挑むのは深草さん、植竹さん、植野先輩、それに私の4人ということだった。

松田先輩がいらっしゃらないし、人数も予想より少ない。

周知期間が短かったことが影響しているのだろうか。

内田君から名前が呼ばれた。深草さん、私、植竹さん、植野先輩の順で整列だ。

松原先輩が遅れていらっしゃるということで、伊東先輩が前に立って準備運動を指導された。

準備運動が終わると不動立ちの姿勢で東先生のご来場を待つ。

先生がいらっしゃった。松原先輩も既に後ろに立っていらっしゃる。あれ、松田先輩もいらっしゃる! 遅れてきたのだろうか?

そして、ついに審査が始まった。

これはいつものように基本稽古からである。号令は伊東先輩だ。

始まるとほどなく、東先生から伊東先輩に少し号令をゆっくりとするように指示があった。

深草さんや私は最前列なので気を抜けない。

汗があっという間に吹き出てきた。それでも基本稽古で注意すべき点はわかっているつもりだったので、無事に終わった。

次は移動稽古とのこと。ほっとする。

水分補給の休憩のとき、後ろにいた松田先輩に「今回でばっちりですね」と声をかけたら、なんと

「今回は受けない、ちょっと移動稽古に来た」

とおっしゃる。それに女性の受審者が少ないので、もしかしたらお相手として役に立つかもということで、いらっしゃった由。

この姿勢には頭が下がる。

再び整列すると松原先輩が前に出てこられて、移動稽古の始まりである。

松原先輩が東先生にいちいち確認を取り、手本は引き続き伊東先輩がみせるということになった。

これも長くてしんどいといえばそうなのだが、やる手順はわかっているので、それほど心配はない。

ところが、パンチの組み合わせの際、握りが甘かったのを東先生に見抜かれてしまって、小声で注意されてしまった。

その後東先生が皆に同じことを注意されていたが、犯人は私です。

失礼しました! 

とはいえ、これも何とか無事に終了。

黄帯以下が後ろに下がってサポーターをつけている間に、緑帯以上は投げ2種類(投げられる方は受身)、絞め1種類、関節1種類となった(絞め・関節は茶帯以上)。

私は背丈の近い植野先輩と組んでやったが、とりあえず無事に終わった。

……そしてついに、昇段審査は連続組手へと突入する……。