第17話:中学での武道必修化と空道の普及(前編)

門間理良の黒帯への階段

9月5日、新聞各紙に「武道、ダンスの必修化」の見出しが載った。記事の内容をまとめると、

★中央教育審議会健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会は、中学校1年生および2年生の保健体育において、武道とダンスを必修とする改善案をまとめた。

★中教審は、改正教育基本法に「伝統と文化を尊重」する態度を養うことが掲げられたことから、武道は日本の伝統と文化を知るために役立つと判断。

というものだ。

 新聞見出しだけで判断すると、すでに「必修決定!」と受け取られがちだが、正確に言えば、今回の審議は、教育課程部会への検討素案として報告するためのものであり、武道およびダンスの必修化を決定したものではない。

 現在、中央教育審議会教育課程部会は、学習指導要領の改訂にむけて審議を行っている。
 
 学習指導要領とは、簡単に言えば「小中高校ではこれこれを勉強しなさい」と文部科学省が告示したものである。小中高の先生たちは、実情はともかく、本来この指導要領に従って児童・生徒を教育しなければならないのだ。

 ちなみに昨今問題となった「世界史未履修」も、学習指導要領に世界史必修が明記されているにもかかわらず、それを多数の高校が実施しなかったものだから発生したものである。

 話をもどすと、この検討素案は文部科学省の教科調査官が中心となって作成され、それをもとに専門部会が審議する。そこで専門家がさまざまな意見を述べ、素案が修正されて、中教審教育課程部会にあがり、それが認められると、最終的には文部科学省が告示する。

 この中に「第1学年および第2学年で『体つくり運動』、『器械運動』、『陸上競技』、『水泳』、『球技』、『武道』、『ダンス』、『体育に関する知識』に関する領域をすべて履修させること」といった文言が入っていれば、そこではじめて、報道どおりの「武道必修化」が決定するのである。

 ともあれ武道必修化は実現するだろう。専門部会で出された意見は尊重されるべきものだからである。それに、このような議論が生れた背景には、「教育基本法がほぼ40年ぶりに改正されたのだから、新学習指導要領に改正した部分を反映させましょう」という考え方に基づいているからだ。

 それはそれで良いと思うのだが、仮に「武道必修化」が中学校体育のあり方に大きな変化となるのだろうか?私の見方は「否」である。

 それはなぜか? 

 現在の指導要領では、「2.内容」の項目で、上記の『体つくり運動』から『体育に関する知識』まで全てが列挙され、さらに「3.内容の取扱い」の項目で、「『武道』もしくは『ダンス』を選択することが明示されている。「武道」は中学教育の現場ですでに取り上げられているのだ。

 資料を元にしていないので断言はできないが、現行の指導要領に基づくと、一般的に男子は武道を、女子はダンスを選択するという傾向が強いらしい。ただ、中学校によっては、最近人気の高いヒップホップダンスを取り入れている学校もあり、そのような学校では男子もダンスを選択することがあるという。

 それが、「武道」、「ダンス」ともに必修となると、これまで「ダンス」を選択していた子供が「武道」もあわせて履修しなくてはならない一方、従来なら「武道」を選択するであろう子供たちも「ダンス」を学ばねばならないという事態になる。

 もちろんまだ確定事項ではないが、1割程度の授業時間数の増加(具体的には週1コマ)の方向で検討されているし、本稿で問題としている保健体育についても、昨今の子どもたちの体力低下という現象を踏まえ、中学校3年間を通してその授業時間を増加することも検討されてはいよう。

 だが、両者を必修化して、若干は増加するだろうが、基本的に限られた体育の時間にやるべきことが増加するということは、全員が何らかの武道の授業を受けることを保証する反面、武道に触れる時間数自体は減ることになると考えるのが自然だ。

 これがどのような結果を生むのか? 武道愛好者人口の底辺拡充につながればよいし、ひいては空道愛好者の増加につながれば良いと私も願ってはいるが、それはやってみなければ正直のところわからないのではないだろうか。

 だが、せっかく武道が注目されているのだから、大道塾としては空道普及のために、この機会を利用したいという気持ちも当然ある。

 次回はこの点について考察しよう。【つづく】

※この文章はあくまでも個人の意見であり、文部科学省の考えを代表するものではありません。 😀