平安孝行「地方からの挑戦」(前編)

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──:空道は総合武道だから、どのように取り組むかでその人のセンスが出ますよね。
大道塾の代表選手である藤松選手の戦い方っていうのは、こいつは打撃が強いなと思ったのは組みにいくし、組みが強いなと思ったら面倒な組みをやらずに打撃に行っちゃうじゃないですか。相手の弱いところをつくっていうのが藤松君のやり方としてありますよね。まあ、相手がロシア人とか一発を持っている場合のことだけれども。打撃も組みも大したレベルでなければ相手につきあうこともありはするんでしょうが。どちらかっていうと相手を見て、見た感じで判断してどんどん相手の弱い方へ追い込んでいくようなことをやるじゃないですか。
一方、飯村さんだったら徹底的に打撃で勝負。ただ、飯村さんがやっているのは空道じゃなくてムエタイだっていう人もいるかもしれないけど、僕は違うと思うんだよね。例えば寝技をやらないかって言ったら、寝技の防御だけはやるんだよね。攻めをやらないだけで。攻めをやらないのも一種の寝技じゃないですか。あまり寝技の修得に時間をかけるのがもったいないから、打撃をやりたいという立場は空道の中でもありえますよね。

平安:飯村先生は、柔術の道場にも、多分行っておられたと思うんです。

──:そうですよ、きっと。目撃情報があるし。あの先生は決してやってないわけじゃなくって、一通りやってて、そのうち打撃だけを伸ばすってことを主張しているんですよ。あの方が寝技をやってないっていうのは大間違いであって。

平安:それも知ってるから防げるんであって、打撃だけやって寝技を全く学ばないというのはおかしいと思います

──:じゃあ、平安選手が飯村さんの戦略と違うのは、もっと積極的に寝技をやりたいということですか。それぞれの競技を、あるレベルまで極めたいと。

平安:そうですね。僕の場合、一応全部やりたいんです。

──:なるほどね。じゃあ、2つめの質問に移ると、そこまで様々な競技で一線の技術を学ぶっていうのは、一昔前なら東京だけでしか言えないことだったじゃないですか。特に90年代前半はそもそも顔たたくだけでも空手系ではウチしかなかったから、そうじゃなければキックに行くしかなかったし、なかなかアマでやるには厳しかった。だから大道塾に優位があったんだけど、今、大道塾以外のアマ格闘技の教室も東京には雨後の竹の子みたいにできています。さっきの話を聞くと、地方にも相当なスピードで広がっているわけですね。それでも地方で不利なところはあるんでしょうか。

平安:そうですね、都会だったら、色んないい選手が集まってるっていうか、そんなに遠くまで足を運ばなくてもできるっていうのが羨ましいですね。

──:まあ吉祥寺は、青木真也と大月晴明が来てるっていう、信じられない(笑)、梁山泊みたいな状態ではありますし、加藤さんのところにも山下志功さんが習いに来ておられて。世界チャンピオンだらけですね。そういうコンパクトな状態ではないということですか。

平安:そうですね。やっぱり、こっちのプロシューターの人たちも、「新しい技が開発されたら技の伝達っていうかこっちまで流れてくるのになかなか時間がかかる、時代遅れって言われるって」言ってます。都会はやっぱ優れてるけえ、俺らは遅れてるな、と。
今日も、プロシューターの冨樫健一郎(パレストラ広島)さんが「やっぱり自分らは時代遅れだ」って言ってました。

──: だけど、時代遅れっていうのは、昔は10年くらいの遅れを指したから。今はビデオやDVDを見たらもうほとんど瞬時に伝わるでしょ?そういう意味では落差はなくなっているんじゃない?昔に比べると。

平安:それはそうですけど。それでもやっぱり東京は選手の数が多いので、田舎だと、岩国で選手でまじめにやっていこうっていう人間は僕以外いないし。

──:じゃあ、どうしてそれで気持ちを持続できるの?「不利だからやっていけない」って言い訳モードに入ってもおかしくないのに、逆に今は空道を引っ張って行ってる感じだよね。

平安:僕は自分の実力には全く自信がないですけど、才能には自信があるけえ。

──:へぇ~っ、おもしろいね、その言い方は。

平安:ものすごい自信があるんですよ、他の選手とかに才能だけは負けないっていう。僕は野球やってきて、50メートル走とかでも5秒8とかだったし、ほんとに運動神経は他の人間とは全然違うっていう自信があるんですけど、実力には自信がないんです・・

──:それはぁ(笑)それぞれの競技を週に1回しかやってないからだよ。週に5回やってる奴には勝てないよ。平安君に負けたら、その道でがんばってる選手は浮かばれないじゃない。それだけだよ。

平安:それでも、柔術とかボクシングの人に負けたくないんです。

──:だから、出稽古は難しいところがあるよね。僕も柔道やキックで出稽古するけど、それぞれの競技のルールでやったらどうしてもやられちゃうもの。自信をなくさないことが重要だよね。それじゃあ、見方を変えて。ボクシングは、日本はあまり強くないよね。アジアを突破してなかなかオリンピック出られないくらい、層が厚い。どんな感じ?こっちのボクシングの選手たちは。

平安:今までいろいろ、田舎のジムとか渡り歩いて、いろんな人にちょろっと教えてもらったりしたんですけど、どのジムでも、きっちり基本から全部直されるんですよ。でも今教えていただいている人は、僕のいいところを引き出して、悪いところをちょっと修正してくれます。僕を尊重してくれて、僕の形に変えていってくれてるんで、信頼できますね。

──:プロのトレーナーの方ですね。広島っていえば、中広選手だったっけ?広島から全勝で全日本タイトルに挑戦したけれど、負けて、でもその試合が評価されて世界戦をタイでやってきた人。そこのジムとは別なんですか?

平安:そことは別で。普段はボクササイズとかやってるジムです。

──:じゃあ広島にもいろいろなジムがあるんですね。たまたまNHKでドキュメンタリー番組を見たんですよ。中広選手の。日本タイトルに挑戦するだけでもすごいと思うし、広島でもああやってやれるんだなと思って。すごく小さいよね、あそこのジム。テレビに映っても小さいくらいだから。器具全部自分の手で作ってるし。それを見て、僕は平安選手がどうやって中央の選手を超えようとしているのか、気になったんだよ。それにしても、ボクシングは技術がある程度まで完成されてるけど、総合武道はまったく未完成でしょ。中央が情報的には有利には決まってるよね。

平安:地方でもできるんだなってのはあるんですよ。やっぱり都会と比べると全く違
うかなとは思うんですけど・・やっぱり、僕みたいなキチガイじゃないとなかなか無理かなと思います。

──:どの点でキチガイなの?

平安:さっき言った通り、自分の才能に自信があるとか、他のことを全部犠牲にできるっていう部分で・・

──:じゃあ今、空道でキチガイは他に何人かいますか?

平安:いっぱいいますけど(笑)藤松先輩もそうですし、寺本先輩もある意味、キチガイですよね。加藤先輩とか、言い意味で。小川先輩とかもなんですけど。

Posted by 佐藤@那覇道場