平安孝行「地方からの挑戦」(前編)

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──:もともとね、平安選手が噂になったのは、平安君のブログが面白いって、ある稽古生から聞いたからなんですよ。「こういう素直なことを書く人は珍しい」と。
春の大会ではきつくて「スーパーセーフの中でゲロ吐いた」とか。ライバルである末廣智明に対する評価も素直で、現役選手なら普通もうちょっと強がって書くはずだろうとか。

平安:いや、飯村先輩もすごいですけど、末廣君もすごいなと。肩が抜けたりいろいろあるとは思うんですけど、まっすぐ伸ばしてもらってて羨ましいなあと思います。

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──:だけど、どうかな。この間、僕らビジネスマンクラスでパーティがあったんで、みんなで昔のビデオを見てたんだけどね。その中で15年くらい前の飯村さんの昇段試験のビデオが流れてね。今支部長さんしているような強豪が次々に出てきて、顎にパンチをもらっててひっくりかえって、長田(賢一仙台西支部長)さんがひっくり返ったのをダウンカウントも取らずに無理やり立ち上げて、「はい!はじめ!」とか言って。
あの華麗な飯村さんがヨレヨレで、最後には見てる人みんなが盛り上がっちゃって、拍手して画面に向かって応援してね。世界大会に出た新宿の佐野教明君とかも、「ああいうめちゃくちゃを経験してきた選手の方が、空道をやっててどっか芯があるっていうか、いざっていう時、試合の一番きつい時に生きるんじゃないか」って感動してた。末廣君は勝つときは最高に華麗なんだけど、試合の一番凌ぎあいになるとどこか怪我したりしてるでしょ。極真の百人組み手にしても、滅茶苦茶なんだけど、それを凌いだ人だけがチャンピオンになれるじゃないですか。まっすぐに伸びるだけだともうひとつ超えられない壁ができちゃうような気がするんだけどね。
まあ、それは王者になるような限られた人だけにとっての壁なんだけどね。

平安:僕も、こんなはずじゃないっていうのはありますよね。常に。まっすぐ伸びたかったけど、回り道してきて、こんなはずじゃないって思ってるから続けられるっていうか。まっすぐ伸びてて、ちょっと挫折したら、環境が悪いからとか言って辞めとるかなと考えたりもします。

──:ほほど同期の藤松選手についてはどう思いますか。本部にずっといられて羨ましい、とは思わない?
でも彼は、特段の出稽古もしないよ。東京にいる利点を生かしたりしていない。放棄しているっていうかね。一度、僕が誘って、学芸大の柔道部に出稽古したことがあるんだけど、インターハイで優勝してる連中相手に、彼はほとんど投げられないんだよね。1時間ずっとやって息も切れないし。相手に聞いたら「力が異常に強かった」と言ってたんだけど。それっきりで二度と行こうともしなかったし。1人でずっと四股ふんだりしてる。

平安:みたいですね。若月先輩からたまに、聞きます。

──:ほんとに四股踏んで刀振ってるだけだもの。あれだと、地方でも一人でも鍛錬できるよね。自分だけにしか頼らないというか。

平安:合宿とかで東京に何回か行った時に、藤松先輩にいろいろ聞いてから自分なりに分かろうとして地元に帰ってからもやってみたんですけど、僕には分からなかったです。

──:何を言ってるかが分からないということ?

平安:分かるんですけど、スパーとか練習とかで試してみたりして、うまく出来ないで放り投げちゃいました。「ダメだ、俺には向かねえ」と。

──:その時は何を言ってたの?藤松君は。

平安:投げられる時に脱力して、こっちに投げられたらこっちに体を預ければいいとか・・お腹のところに手を構えて、そっから打てば予備動作が見えないんだとか、いろいろ教えてもらったんですけど。たまにスパーの途中で相手の意識を変えるためにやったりはするんですけど、ちょっと僕の中で疑問が生まれたんで…

──:いやあ、僕も合気道系の話をいろいろな方から聞くことはあるんだけど。消化できたかどうかは分からないけど、勝手に想像してはいるんですよ。いくつかあるんだけど、今の一つめの話は、柔道にもあるやつじゃないのかなあ。相手の体重を受けた瞬間に膝の力を抜く、いわゆる「抜重」。柔道でも、相手の払い腰や内股に対して、受ける側がやるんです。で、こないだ僕の自分のクラスでもやったんだけど、投げが得意じゃない人は逆に抜重してから投げられてしまおう、と。で、投げられた瞬間に上になっちゃえばいいわけじゃない。相手が首投げに来た瞬間に膝の力を抜いてしまうと、座っちゃって膝に相手を乗せるようになる。そのまま投げられると、回転して上になるんだよね。あれ、だから柔道だと1本取られて負けちゃうから出来ない。でも空道では相手が立っていられないから効果もつかなしい、気にする必要がない。で、一緒に転んで上になるわけ。
昔、小川選手が、面白がってなのかな、数回試合中にやってました。最初はわざと投げられてるんだよね。投げられる瞬間に脱力して、ころがって上になって、キメを入れてる。藤松君もそれを言ってるんじゃないのかなあ。

平安:そんな感じかもしれないですね。ただ、自分は捨てたわけじゃなくて、今はやらない、頭には残しておくって感じにしてますけど。

(後編に続く)

Posted by 佐藤@那覇道場