清水和磨「ラスト・サムライ in 空道」

–:ちなみに僕は平塚君については、ガオラでゲスト解説させていただいたときに朝岡さんから面白い話を聞いたんですよ。朝岡さんによると、平塚選手はこの間ロシアに塾長と行ってケリモフ・シャンハルと試合をして負けて以来、すごく考えこんでるんだと。対ロシアということで、組み手を変えようとしていて模索中なんじゃないかって言うんだけど。ただね、タックルを何度もしたでしょ?あれは意味がわからないよね。レスラーほどタックル強いとか早いわけじゃないし、タックルに成功したって空道の寝技は30秒しかないので、倒れるとちょうどガードポジションになっちゃう。それからパスガードするのに時間がかかると、マウントにもニー・オン・ザ・ベリーにも行けずに終わってしまう。何をやろうとしたんですかね。

清水:そう、それでその辺を話してないんですよね。なんかおかしかったとは思ったんですけど、試合の話はしてないんですよ。だからなんでああなったのかっていうのは・・・聞いとけばよかったなという気はしてるんですけどね。でもロシア遠征レポートにも書きましたけど、藤松でない限り、平塚が勝てない以上、他の誰がケリモフとやっても結果は同じだったと・・・あっ、長野先輩なら勝ってたでしょう。

–:平塚君、ある時期に、柔道的な組み方がうまくなった時期があったでしょ。沖縄にいたときに琉球大学の柔道部で稽古したんじゃないか、って話を聞いたんだけど。小外掛けとか、結構うまかったですよ。今回はどうして出さなかったのかな?外人には通用する技じゃないので、入れ替えてるってことかもしれませんが。

清水:でも、大道塾で組み技がうまいっていっても、それが外でも果たしてうまいっていえるかというと・・・・てのはあるんですよ。強いかどうか、わからないですね。 30秒なわけですよ、30秒なのに1本勝ちがこんな多すぎるのは結局…

–:ガードが弱い?

清水:いや、それ以前に、実力が全然違うんですよね。30秒でぽんぽん1本が出るっていうのは。もちろん、あれですよ、立ち技から流れを作っていって、ぱっとそのポジションを取れれば30秒以内ってのも充分ありうるんですけど・・

–:そこまで考えててできる選手は何人もいないからねえ。

清水:なんかふっと入ってあっという間にとか、すごく多いんで。

–:僕が最近出稽古している東大柔道部っていうのは七帝柔道だから、昔の高専柔道ルールで稽古しています。15分間延々とやって、東海や国士とでも引き分ける役の選手を養成してるわけね。それから言ったら確かに30秒なんかで取られるってのはありえないですね。寝技だけに専念して稽古させれば、全日本クラスの選手と対戦しても、先方があまり寝技は得意でないならば5分くらいならなんとか持ちこたえる選手を作れるんですよ。だから言われてみると、30秒で取られるってのは、まあありえない。
平塚君は何を考えてたんだろう。その日によっても調子の善し悪しあるじゃないですか。それとも違う?

清水:とにかく、あれですね、何も感じなかったというか。あの日は全体的に感じなかったですね。稲垣先輩がよく言うんですよ、「みんなうまい」って。でも、怖くないんですよ。おっかない人がすごく少なくなった。ほんとにギリギリの戦いをするような、そういうんじゃなくなったんですよ。 空道という競技として良い試合は多くなってきたんですけど。

–:市原・稲垣路線ていうのは、とにかくそれでしたね。怖い人たちだった。

清水:忙しくてたまにしかいらっしゃらないですけど、来た時とかは違う稽古になっちゃいますからね。それなのに、稲垣先輩が来られない月曜日でも、最近は選手なのに来ない人が多いんです。
昔は、総本部は強かったわけじゃないですか。そんなのありえないっていうか、常識外れなことをやってて、それで強かったっていうのがあったんで。時代が違うし今後は違うことをやってかなきゃいけないんでしょうけど、どうしたものかなっていうところです。ただ本部所属の一般選手なのに月曜日クラス出ないで試合する人達にもっと出て来てほしいです。うちらとやってれば予選の選手はそれより楽なわけじゃないですか、本当に北斗旗目指すならなんで出ないのかな?と思います。兵頭さんなんて42歳ですよ。そんな人が頑張ってるんだから一般で出る若い連中なんてもっと出来るはずです。一緒に稽古してなくても総本部の選手には簡単に負けてほしくないし、変にチームみたいに小さく固まってないでもっと色々お互いが学び合うみたいになったらいいなと思います。

–:じゃあ、大会では藤松とあたる所までは、そんなに怖いというか、ギリギリの試合はしなかったっていうことですか?

清水:そうですね。自分はそんなに「技が多彩で」とかいう感じではないじゃないですか。やっぱり気持ちだと思うんですよ。今は気持ちの折れないやつがあんまりいない…ちょっと競ってくると諦めてしまうんで。追い込んでいっても諦めないやつっていうのが一番やっかいですよ。

–:そういえば対平塚戦だったかな、清水君は相手のパンチをわざわざ待って、右フックをかぶせて打ち返してたじゃない?稲垣さんが得意にしているパンチだけど・・・

清水:単純にあれは避けられなかっただけ…

–:いや、避けられなかったっていっても、仰け反った訳じゃなく、カウンターを打つかのように返していたじゃない。あれも気持ちだよね。ああやられると、打った側は「この相手は気持ちが折れない」って印象づけられるじゃないですか。最初から気持ちで負けないって決めてるからああいう感じになるわけでしょ。

決勝で沸き起こった「清水コール」

清水:距離をとって闘うっていうのは、自分は無理なんで。もっとうまい人はいっぱいいるんで、向こうが考える時間を与えないようにするのが自分のスタイルなんです。あと今回も、大勢知り合いが応援に来てくれてて。自分がチケット売るのは、関東は3割だけなんですよ。全部で80枚買ってもらえたんですけど。

–:どんな割合で売れたんですか?

清水:関東は30%くらい、あとは長野とか新潟とか群馬とかいろいろです。

–:でもディファで80だったら、かなりのもんだよ。代々木第二だったら3000も入るから目立たないけど。

清水:それで、交通費が1万、2万、3万かかってるやつもいる。それでも来てくれるんですよ。やっぱりそれがすごくありがたいなっていうか。中にはほとんど会ってないのもいるし、年に1回会うか会わないかっていう人もいるんですけど。
自分、6年以上同じ所に住んだことがないんですよ。仕事もやっぱ、これ(空道競技)を続けるめに転々としてて、それなのに世界大会とかにちゃんと来てくれた人っていうのは、ほんとに繋がってる人間だと思うんですよ。たまの休み、週1のやつならば1日つぶれるわけですよね。それなのに来てくれて、「来なきゃよかった」って思われたら絶対嫌ですから・・・この前はそれが特に強かったですね。

–:稲垣さんは1回戦から観客席で清水選手に大声で声援していて、で、何言ってるかと思ったら「殺せ~殺せ~」って。非常にわかりやすい。会場まで来たら、いまさら技術じゃないだろう、ってことなんでしょうけど。あれも言いたいことはよくわかる。その気迫で行けってことなんだけど。清水君もそれに応えて、前にがんがん出ていましたね。対照的に、藤松選手はそういう気持ちを消しちゃうところがあるでしょ?それはそれで、彼ならではの武道なんだけど。そのせいか、決勝は清水コールが一斉にわき起こった。
だけど今回あんまり気持ちが前に出てるんで、ひょっとして引退するつもりじゃないかとまで思った位ですよ。それはお客さんを呼んだからだったんですね。

清水:呼んだからっていうか…自分は最近、気持ちを同じ状態に維持しにくくなってて。とくにスパーリングはやりたくない時は休みたいっていうか…。職員て毎日がそういう生活じゃないですか。この日はこれをやんなきゃいけないって決まってるんですよ。それがずっと続いたんで、自分は凡人ですからやりたくない日は休みたいんです。甘いって言われるかもしれないんですけど、逆にのってる時にがーっとやりたいんですよ。なかなかそういう風にはいかないんで、結構気持ちをコントロールできないところがありますね。

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Posted by 佐藤@那覇道場