第14話:夏合宿と初めての試合

門間理良の黒帯への階段

 2006年夏、私は大道塾の関東地区夏合宿に参加することにした。日程は8月4、5、6日の2泊3日だ。妻からは、

「自分の誕生日(8月4日に41歳)に大道塾の合宿?! 信じられない! リオ、エリカ! パパは誕生日なのにお外に泊まりに行くんだって!」

と強烈なストレートが飛んでくるが、許せ許せと申し込んでしまった。しかも試合にもエントリーしてしまった。これは大道塾に関してなんでも体験してみようと思っていたからで、試合は大道塾体験の中でも究極のものだと私なりに位置づけていた。このあたりは、我ながらかなり前向きな姿勢である。

 8月4日(金曜日)午後、私は1人東北新幹線の那須塩原駅に着いた。ここは本当になにもない駅だった。事前にインターネットで調べたバス時刻表で余裕をもってバス停に向かった。ところが…! バス時刻表は改定されていて、1日6本だったバスが、4本になっているではないか!

しかも、そのバスは先ほど発車したばかり。次のバスまで3、4時間はある。これでは午後の稽古に参加できない。炎天下の中、人っ子ひとりいない那須塩原駅東口で、私はしばし呆然としてしまった。

 気を取り直してタクシーを呼ぼうとあたりを見回すと、地元タクシー会社の小さな看板があった。公衆電話もある(私はこのときまだ携帯電話を所有していなかった)。急いで電話をすると10分程度で来れるという。助かった。

 タクシーに乗って20分程度乗ってホテルに到着したが、タクシー代に4000円程度かかってしまった。なんで日本のタクシーこんなに高いですか! 台湾の約3倍よ。私信じられないね!! 思わぬ出費で逆上してしまった。

 割り当てられた部屋は和室8~10畳程度の部屋で関東各地のビジネスマンクラスのメンバーが集められていた。同室は大塚先輩、谷川先輩、毛利先輩、海野先輩、小原さんに私という6人だった。

 隣部屋は酒井先輩、伊東先輩、高野先輩、佐藤先輩らだ。見知った人々が多いというのは、やはりホッとする。

 部屋で居場所を確保すると、間もなく1回目の稽古である。着替えをしてサポーターなどを詰めて1階に降り、大塚先輩の車に同乗させていただき、稽古場へと出発した。稽古場は車なら数分というところだが、歩いていくにはかなりしんどい距離だ。

 森の中の体育館武道場が稽古場となっていた。畳の部分と板の間の部分が半々である。那須とはいえ、この場所は高地ではないので暑い。しかし、耐えられないほどの暑さではない。まさに微妙な暑さだ。
 
 日程は、4日午後の稽古、5日朝のランニング、午前と午後の稽古(昇段・昇級審査も)。6日朝のランニング、試合と続く。

 稽古の内容については、以前掲示板の夏合宿の項目で書いたのでそちらを参照していただくこととして、ここでは3日目の試合について書いておきたい。なお、2日目の昇段審査では、谷川先輩が見事初段に昇段されている。

 私が参加したのは、ビジネスマンクラス5級以下の部で私を含め、3人がエントリーしていた試合である。この日は朝のランニングで3位入賞していたこともあり、それなりに気分は良かったのだが、試合が近づくにつれて、その元気は急速に失われていった。なぜだか、昔飼っていた犬が散歩に連れ出されて喜んでいたら、予防接種と途中で気づき、尻尾を丸めて尻込みしていたのを思い出した。自分がまさに精神的にこの状態なのだ。

 稽古場に着いたときには、「何でエントリーしちゃったのかなあ?」などとぼやく始末である。2日目に昇級審査を受けた人は3日目はなにもないので、涼しい顔である。うらやましかった…。

 私も昇級審査だけにすればよかった! などと思うが後の祭りだ。酒井先輩が、「ここまできたら、試合を楽しみましょう!」と言って下さるのだが、なかなかそのような気分になれない。

 そうこうしていると、ついに自分の試合が回ってきた。スーパーセーフは小原さんからお借りしている。もう、やるしかない。相手は行徳支部の5級の方だ。私より10歳くらい若い。ビジネスマン体力指数では私が数ポイントは上回っていたと思うが…、猛攻を受けきれず、転んでしまった。痛くはないのだが、吹っ飛ばされる。5対0。完全に負けだ。

 この方は、次の横浜南同好会の方にも勝利したので、これで1位が決定した。残るは1敗ずつの2人である。

 進行役の支部長が双方に戦う意志を確かめてきた。このときの私は、「このままでは終われない」という闘志が遅まきながら生れてきた。1度戦ったことでリラックスできたのかも知れない。次に相手となる方も戦う意志を示したので、試合となった。

 2試合目は、自分なりにけっこう冷静に試合を進めることができ、下段蹴りを連発して圧倒できた。今度は5対0で勝利した。記念すべき初勝利だが、まずは試合が終わりほっとしたことを覚えている。先輩方がセコンドとしていろいろ声をかけてくれたこともうれしかった。

 このときの試合審査で、私は7級への昇級が無事に決定した(発表は後日)。

 合宿は無事終了した。私は、帰りの切符も買っていたのだが、結局大塚先輩の車に同乗させていただき、自宅まで送っていただくことになった。先輩の話によれば、行くときは公共交通機関を利用しても、帰りは誰かに自宅近くまで、あるいは適当な駅まで送ってもらうというのは、合宿のときによく利用する手だそうだ。

 最後に、まだ合宿に参加されたことのない人のために、私なりの合宿の感想を書いておきたい。
 
 全体的な印象としては、普段お会いできない高名な先輩の指導を受けられることや、他の支部の皆さんと一緒に稽古ができるということは、知り合いが増えるという点でも良いことだと思う。また、同じビジネスマンクラスで稽古をしている方々とも結束が深まる。ただ、普段私が総本部で受けていた指導と相反する内容(技法)を教えられることもあるので、戸惑うこともあるのは事実だ。

 疲労がずいぶんと溜まるのではないか、と心配される方もいらっしゃるだろう。たしかに、3日目ともなると徐々に疲れてくるのは事実だが、稽古と稽古の合間にはお風呂に入ったり、昼寝をしたりする時間がたっぷりとあるので、耐えられないことはない。もちろん、稽古中に苦しいとなれば、申告して休憩することは可能だ。

 朝のランニングは、けっこうゆっくり走る人もいるし、高野先輩や私みたいにハイペースで走る人もいる。実にさまざまだ。もちろん、事前にジョギングなどで身体を慣らしておけば万全ではあるが、自分の調子を見ながら走ればよいだろう。
 
 食事は朝、昼、夜と皆で食堂でとったが、けっこううまかった。ただ、当時の食事メニューを思い返してみると、これは「空腹は最高の調味料」という言葉がぴったりかもしれないので、あまり期待しないほうが良いだろう。

 良い点ばかりではなく、やはりいただけない点も挙げておくべきだろう。

 まず、今回の合宿地は交通が不便であった。自家用車だけでなく、公共交通機関を利用しても、あっさりと到着できるところを選定してほしい。

 稽古場やコインランドリーが、車がなくてはどうにもならないほど遠い。これは非常に不便である。次回合宿ではぜひとも改善していただきたい。

 また、どうせなら温泉付ホテルで、夏に涼しいところでやってほしかった。伊豆高原とか箱根とか伊香保とか水上とかに適当な場所になかったのかなあ、とは思う。

 一番問題だと思ったのは、1泊2日であっても合宿費用が2泊3日と料金が同じ点である。「既に割引料金になっているので…」というのが理由だそうだ。私は最初から2泊で参加するので不服はなかったが、仕事や学業などの都合で1泊しかできない塾生は不満が残るやり方だと正直思っている。

 ちなみに、今年の夏合宿は1泊2日だそうだ。それはそれで寂しい気がする。私は合宿なのだから、3泊4日程度でも良いと思っている。
 
 きちんと日割り計算を行った料金設定にして、なおかつ2日目と4日目に昇級審査をもってくるようにできれば、塾生はそれぞれの都合によって、3泊4日で参加したり、前半の2泊3日を選択したり、終わりの1泊2日だけ出席するとかのアレンジも可能だ。

 こうした作業は事務局としては大変だろうから、思い切って旅行会社に任せてみるのも一案である。例えば、日本国際政治学会は毎年2泊3日の泊りがけになる大会を挙行しているが、宿泊に関しては旅行会社に任せてうまく運営している。

 文句も書いたが、合宿そのものは悪くないと思う。もし参加されたことのない方がいらっしゃったら、ぜひ一度今年は体験してみてください! これは本心です。

 えっ? 私は今年参加するのかって?! 

 今年はプーケットに6泊8日のバカンスに行ってきま~す 😀 & 😎