藤松泰通「試合」を語る

藤松:ん~難しいんですけどね。だから、そこで例えば、エサじゃないんだと思ってグワーーって向かってもダメなわけです。

--それはエサのやることだからな(笑)。

藤松:そうそう。だからそうじゃなくって、勝ちに対する執着も捨てるくらいの気持ちにならないとダメですよね。

--元々、そういう風に気持ちを操作する練習はしてたの?

藤松:勝とうと思ったら、そのままじゃ無理ですから。デカイ奴がきてんのにウワーって思ってたら絶対無理です。ただ、ロシア人だけですよ、強いのは。外人ていうのはパワーあって強いんですけど…

--それで・・1回戦の相手は誰だったっけ?

藤松:ドイツの奴で…、計量の時アイツもいたんですけど、でかくて全身入れ墨なんですよ、ぶおーーって。ひええぇーーコイツか~~って思いましたけど。

--実際、前に立ってみたらどうでした?

藤松:実際に前に立ってみたら、後でも説明しますけど、ガっと、技って言うか見えないところの術のレベルなんですけど、かけると相手はびびる。そこで、あ、こいつは大丈夫だと。

--で、2回戦は、カイセド。曲者ですね。ポスターにも写真が出ていたね。前回はお父さんがコロンビア代表だったな。

藤松:ん、あいつは全然ルールがわかってなくって、マスクつかんじゃったりとか…

--反則以外では、どうでしたか?実力的には?

藤松:めちゃくちゃですよ。喧嘩ですから。まだ若いから…二十歳かな?

--でも、カイセドは向こうではいくつもタイトルとってるよね。こちらの北斗旗の情報は行ってるんだろうけど、実際には雰囲気はよく分からないんだろうな。だから、反則しちゃったり荒っぽい。…荒っぽい事自体は、相手としてはキツくないですか?

藤松:大丈夫です。終わってから、自分が何で負けたかも分かってないんで、自分の前にやってきて、じーっと顔を覗き込むんですよ。なんなのかなーって。

--制するところを制して、掴んじゃうと。

藤松:そうです。そうです。荒っぽい方がいいです。

--荒っぽいほうが楽?

藤松:楽です。

--なるほど。3つ目は、ラルサノフ。これは凄かったねえ。いかがでしたか?

藤松:日本人とはレベルが全然違いますから…パンチとか見えないですから。スポーンスポーン、って。本当に違いますよ(ため息)。

--今回の藤松君は、いつもと構え方を変えて、基本的にガードをしてたじゃないですか?あれは、やっぱり自分の見えないパンチが来たときのためのガードっていう意味なの?

藤松:技術的なことになっちゃうんですけど…下げても、いけるレベルだったら大丈夫なんですけど、レベルが低いから逆に上げたっていうか、外人はその方がびびるから。でもこいつ相手のときはこっちも止められないから、しょうがないから上げてたんですよ。

--それで、その3回戦のラルサノフのパンチがきたときに、自分としてはどう対応しようと思ってたんですか?

藤松:えーとですね。これが難しいところで、来たーと思うともう来てるんですよアイツのパンチっていうのは。…それは絶対無理ですね。そうじゃなくって…もらっても平気っていうか、自分の体から芯をなくすんですよ。リラックスするっていうか。だから、スカーンってきても平気なんです。恐いとおもったらダメです。

--これは構えとか武道観の問題になるのかもしれないんだけど、やっぱり現在の日本人の選手は相手との距離が近いと思うんですよ。パンチがあまり伸びない事もあるのかな。みんな距離が近すぎる。
その点ロシア人はパンチも伸びて遠くから強いのを打って来るじゃないですか?おそらく制空権としては50センチくらい日本人より長く確保しているから、構えから変えないといけないんじゃないか。
藤松選手はもともと制空権が広いのに、それでもさらに構えを変えましたよね。日本ではあんなに長い制空権を持っている相手とは練習できなかったじゃないですか?藤松君と決勝を戦った相手でも日本人は近いところで打ち合うから、仮想ロシア人の練習にはならないでしょ?自分の頭の中でイメージ・トレーニングしてたの?

藤松:今までの練習方法っていうのは、スパーリング相手がいてとか、ウエイトやってたりとか相対的なんですよ。相手がいて出来るわけじゃないですか?自分のは違うんですよ。自分ができれば、どんどん強くなるんですよ。まさに1人で刃物を研ぐようなものなんです。それでも相手がロシアだからやった方がいいってみんな言うし・・どっちにするか、今回はせめぎ合いなんですよ。

--ルールとしては違うけど、キックとかやってる選手はもっと遠いでしょ。だからそういう選手と練習した方がいいとかではないのかしら。飯村さんの吉祥寺ではキック選手といつもスパーやってるよね。藤松選手はあんまりそういう人たちとは練習やってないでしょ。それはやらなくても大丈夫だと思ったってこと?

藤松:距離が遠いとか言っても、そういうこと言ったら蹴りもパンチもって、全部の事をやらなきゃならないわけですよ、だからきりがないです。だから全体なんですよ、問題は。全体っていうのが何かっていうと心なんですよ。相手の心を操るものを身につける。そうすると相手が打とうとする瞬間がわかるわけなんですよ。

--なるほど。となるとやはり藤松君の言う「武道」が問題になるんだな。それで今回の焦点は3回戦だよね?その場で、それは、できたの?

藤松:ま、できたから、何とか…っていうところもありますけど、でも、自分は満足してないです。

--結局どうしたかったの?

藤松:やっぱり明確に差をつけたいっていうのはあるし、自分ができてないけど、相手はびびるわけです。自分はできてないと思ってるけど、出来たってことは相手のレベルが低いから出来たことであって…自分がしっかりできたと思って倒せれば完璧なんですよ。

--寝技だけじゃなくて打撃でも…

藤松:何でも。全部です。それなのに、とにかく、こっちは獲物なんですよ。獲物。

--キックとか、そういう分野では特にロシア人だけが強いってわけじゃないじゃないですか?ヨーロッパ人、結構強いのがいるんだけど、なんで空道ではロシア人だけがあんなに強いのかな。

Posted by 佐藤@那覇道場