第2話:私を指導してくれた諸先輩

門間理良の黒帯への階段

 道場の時間割は初級・中級・上級・自由稽古、と分かれており(他にもあったかも知れない)、該当する稽古に参加すると「初」とか「中」とかの小さなはんこを塾生証に押してもらうシステムだった。まずは初級に参加である。

道場に入ったときの第一印象は、神棚でもなく、トレーニング機材でもなく、正面の壁に掲げられた道場訓でもない。汗の匂い、である。まだ稽古が始まっていないから汗をかいている人はいないのに、そんな匂いがするということは、それだけの汗が道場に染み付いているということなのか。

道場は1階(板張り)と2階(畳張り)に分かれている。1階道場の正面向かって右側には、ずらっとトレーニング機材がならんでいた。機材といっても、現在の総本部1階にあるようなトレーニングマシンではなくて、スクワット用機材、ベンチプレス用機材、腹筋台、そしてダンベルや鉄アレイなどが主だったように記憶している。

 白帯をしめた我々新人は、まず1階で基本的なことを教わった。2階で並行してレベルの高い稽古をしている先輩が代わる代わる一階に降りてきて指導してくださるのだ。挨拶の仕方や準備運動に始まり、基本稽古、移動稽古を教わった(内容自体は現在とさほど変わっていないように思われる)。最初は「押忍」の言葉すらうまく言えない。つい「はい」と答えてしまう。

 それに、基本稽古は念入りに、移動稽古はこってりと、教え込まれる。これは動きそのものに慣れていないので辛かった。だがさすがに高校生で、体が柔らかかった。慣れてくると、前蹴上げでは太ももがスパンと胸につくぐらい上がるようになった(現在は…)。

 そのような稽古が終わると、新人も2階に上がっていって、「押忍」と挨拶し、加わることになる。二階では約束組み手やスパーリング、それに投げ技に対する受け身の練習もやった。受け身は合気道をやっていたので、けっこうすんなりできた記憶がある。
 
 ここで、当時主に教えてくださった先輩を紹介したい。

 まず、岩崎弥太郎先輩(当時は初段か二段だった)。小柄だが筋骨隆々。顔もごつい感じで角刈りの髪が剣山のような印象を受けた。このように書くと強面と思われるかもしれないが、笑顔はとてもやさしい人で、我々は「弥太郎さん」と呼ばせていただいていた。シャドウやサンドバッグを叩いている姿をよく見かけたが、まさに「ラッシュ」そのもので、「あれを叩き込まれたら確実に死ぬな」と思った(その後、何度かごく軽めに叩き込んでいただいた)。

 Y先輩(黒帯)は長身で痩せ型。リーゼントだったかパンチパーマだったか、とにかく普通人のヘアスタイルではなかった。一般の人が抱く「空手家」のイメージに近い方だろう。Y先輩は後に大道塾を辞めたと、再入門後に東先生から伺った。

 小野さん(81年無差別8位)は初段。まだかなり若く20歳代前半だったと思う。村上さん(おそらくお名前が「明」だったと思う。81年無差別4位。私が在籍中に茶帯から黒帯に昇段)、松本さん(81年無差別7位。緑帯から茶帯に昇級)にも、よく指導していただいた。

 寮生の黄帯の方は、比嘉さん(現在、那覇支部長)だった。今なら比嘉先輩と申し上げるところだが、当時は先輩に対してもけっこう「さん」付けでお呼びしていたのである。また、入門時に受付で対応してくれた女性は松林さんとおっしゃる黒帯の方だった。いずれも温厚な人たちばかりで、稽古ではドカドカ、バチバチとやられたが、不必要なしごきに類する陰湿さは一切なかった。

 そして、東先生である。先生は今でもすごいが、当時はまだ30歳台前半で、それはものすごい筋肉をまとっていた。1階道場の隅で先生がものすごい重さのバーベルを担いでスクワットしていたのを思い出すが、日々の稽古とともに、筋トレを重視されていたのだろう。私も師に倣えば良いのに、機材を使ったトレーニングはせいぜい腹筋台とか鉄アレイぐらいだった。それでも、体の筋肉はあっという間についていった(なぜかは、次回あたりで説明する)。

 基本稽古・移動稽古がなんとか一通りできるようになると、東先生の号令の下でこれらの稽古をすることもあったが、現在と同様、ものすごくこれらの稽古を重視されるので、悪い点を何度も注意されたりした。そして基本稽古の最後の加速度がついていく金的蹴り。これも現在と全く同じ。むしろ今のほうが早くなっていたりして…、などと思ったりする。

 今は良い友人となった高澤泰一(当時は南田という姓で緑帯。現在初段)にも時々習っていた。彼は大道塾古株の1人で、東先生が極真時代だった頃から、そこの少年部に通っていた。当時、南田と私とはそれほど仲が良いというほどではなく、同じ高校の顔見知り程度だった。ジャッキー=チェンを信奉していて、皆からは「ジャッキー南田」とか「ジャッキーさん」などと呼ばれていた。要するに変な奴である。