第8話:大道塾再開のきっかけ
「もんちゃんも、早く学位を取りなよ。それに運動もしたほうがいいよ」
Mにこう言われたのは、2006年3月だった。
Mとは南開大学留学(1989‐90年)時代に知り合い、1991年ともに筑波大学大学院に進学した親友である。我々は博士課程在籍時も北京大学に留学しているから、親友以外の言葉を当てはまるとすれば、「腐れ縁」というところだろうか。
Mは博士課程を出た後、筑波大学で技官や非常勤講師をしながら博士論文の執筆を進めた結果、「博士(文学)」を取得した。
それだけの事実なら、読者諸氏も「ふ~ん、良かったね。で?」で終わってしまうだろう。
彼の面白いのは、博士論文執筆の傍らエアロビクスにはまり、ジムに週2~3回の割合で2年ほど通い、ついにインストラクターの資格まで取ってしまったというところである。
おかげで大学に就職する直前の彼は、大学非常勤講師とエアロビのインストラクターとしてのバイトが二大収入源となっていた。
そのMから言われたのが、冒頭の台詞である。それは何気ない一言だったのだが、私の心になぜか響くものだった。
論文はこれまでもコンスタントに書いていて、それなりの評価も得ている。論文のレベルはけっこう高いし、台湾軍事研究という分野では日本一だとの自負はある。だが、それらの仕事を通じた評価は、博士論文のように1つの大きな目標に収斂していくという学問的に意義深いものではなく、依頼された原稿を淡々と書いてきた付随的結果に過ぎないのだという反省を、Mの言葉は私にもたらしていたのである。
「運動する」ということについても、私の心のどこかに響くものがあった。
現時点で体調が悪いわけでもなく、医者に運動を勧められていたわけでもない。だが、40歳になっていた自分の体力は、このままの状態であれば、どんどん落ちていくだろうという冷静な自己分析はあった。
「このまま五十歳代、六十歳代になっちゃったら、どうなるのかなあ…」などという漠然とした不安のようなものもあったと思う。
もちろん登山などのアウトドア活動は適当に続けていくつもりだったし、「中高年登山ブームに乗っているわけではないよ、俺は昔からやってるんだよ」という生意気な気持ちもある。
だからこそ、昨今頻繁に発生している体力不足を起因として、また、そこからくる精神的ゆとりのなさから発生する中高年の山岳遭難を演じてしまっては、探検部出身者としては耐え難い恥辱である(幸いなことに「地図が読めなくて」、「装備品が使えなくて」という心配はない)。
そうならないためにも、やはり身体を鍛えよう、という気持ちが徐々にだが固まっていった。それとともに、キーワードも「運動」から「鍛える」に、いつの間にやらシフトしていた。
だが、身体を鍛えるといっても、選択肢は数多い。私自身、ほんの一時期だが近所の駒沢公園のジョギングコースを走っていたことがある。
きっかけは、自宅から駅まで走ろうとしたときに、200~300mで息が切れてしまったことにショックを受けたからだった。
だが2,3ヶ月も走っていたら、10㎞なら1時間で走れるようになっていた。本当に走れるのかな、と2日ほどおいて、再度チャレンジしてみたが、やはり走れる。
「なんだ、俺でもできるじゃん」と思ったら、もともと薄かったジョギングに対するやる気は急速に薄れていった。
では、Mがやっていたようなエアロビか?
これも駒沢公園内の公共ジムで毎日プログラムがある。ジムは一回2時間の利用料が450円だから、週3回通ったとしても5400円だ。
だが、腕立て伏せを途中で停めて、観客に 😀 と笑顔を向けるような恥ずかしいことは、私には絶対に出来ない。
選手権を目指さなければ、そんな笑顔も必要ないことは重々承知しているが、そういう要素のあるスポーツは、そもそもいやだった。
野球やサッカーなどの団体スポーツは、やる気もない(群れるのは性に合わない)。
テニスやスカッシュはちゃらちゃらしている(球技が苦手だ)。
ゴルフは嫌いだ(「お前、絶対パーだよ!」とは死んでも言われたくない。←すいませんパクリました)。
水泳は疲れる(姉ちゃんとビーチで水遊びするならいい 😎 )。
囲碁・将棋(中国ではスポーツに分類されている)? 頭しか鍛えられないでしょ!
バカの考え休むに似たり。
思いをめぐらしているうちに、水底のほうからピリピリとした緊張感と微細な振動とをともなって、静かに浮上してきた某団体の名称があった…。
まさに「精神と身体とを鍛える」という言葉があい相応しい団体…、その名を「大道塾」という。
※論文「中国航空戦力の近代化が台湾海峡の軍事バランスにおよぼす影響」、書けました! 6月1日発行の雑誌に掲載ですので、興味ある方は声をかけてください(そんな人いるかなあ?)。コピーを差し上げます。
ということで、論文も書けたことですし「本日の稽古」も再開させたいと思います。どうぞお楽しみに。
ディスカッション
コメント一覧
木下義浩
やっぱりおもしろい!
門間さん作家で食えるョ 直木賞とか狙って
空道ネタで書いてみて 😀
門間理良
ありがとうございます。
でも、私の周りにいる面白い人物を書いているだけなんですよね。
もちろん、木下先輩もその1人ですよ 😆