第35話:怒濤の3級挑戦編 その2 =激闘!主観的には…=

門間理良の黒帯への階段

東先生が手元の資料を元に塾生の名前を読み上げていく。以前なら、じっくり相手を選んでということになっていたから、ここは大いに改善されている。

 すぐに整列が終わり、目ならし。そして組手が女性クラス、帯下のほうから遅滞なく始まった。

 なんとアクシデント発生。所さんが負傷したのが見えた。足首を挫いたらしい。糸井さんが所さんを軽く抱き上げて後ろに下がらせた。格好いいなあ、おい!(所さんの早い回復をお祈りしています。)丸亀さんも一所懸命戦っている。山田さんはどんどん強くなりそうな予感。

 女子部が終わると、基本ルールの戦いが始まった。感想を一言で表現すれば「痛そう~!」である。間合いをつめて素手でのパンチとローキックの応酬だ。少なくともこういう戦いを今回からしなくてもよいことを私は神(どんな神だ? 東大明神だろうか?)に感謝した。

 
【一の壁 糸井さん編】
 さて、私が最初戦うことになったのは、格好いいところを見せた男、糸井さんだった。これはちょっと予想外だった。しかしこの期に及んでは戦うのみだ。糸井さんも十分に気合の入った表情である。実際に手を合わせてみてわかったこと。それは…

「やっぱり糸井さん、強いわ~!」

 50歳を過ぎて大道塾に入門し、土曜日のBCあるいは平日にも時間があれば熱心に出ておられる糸井さんである。心がしっかりしていると組手にも強さが出てくるなあ、と素直に尊敬した。

 それにパンチがうまい! 変則的な感じがこのところますます板についておられる。私はおぼえている限りで2、3度ストレートのパンチを食らっている。

 こっちも緊張して構えているし、意地もあるから、「効いた」とは言わない。しかし、当てたこと自体がポイントになる競技なら確実に私は失点している。年齢や体力から考えれば、私がもっと押し込んでいかねばならないはずなのだが、糸井さんのほうが格好良く戦ったと思う。

 糸井さん、勉強になりました。これからもよろしくお願いします!

【二の壁 寺崎さん編】
1試合終わるとかなり疲れていることがわかった。植竹さんといやいやこれは大変だよね、などと話しているいうちに指名がかかった相手は、私が本命の相手と目していた寺崎さんだった。

 寺崎さんとは当たるだろうなと予想はしていたが、もっとも当たりたくない人物でもあった。以前のブログに書いたことだが、私は黒帯を狙う先輩には負けるのを覚悟で戦いを挑んでいる。相手は私よりも長くやって経験も豊富な先輩だから、負けても仕方ないと達観しつつ思い切りぶつかっていくだけだ。だが、同じ帯色同士だと、そうも言えない。

 寺崎さんとは最近でこそ一緒に稽古する回数は少ないが、以前はよくマススパーをやった仲である。サウスポーでパンチの出し方が非常にうまいのだ。相手に読めないようにパンチを叩き込んでくるテクは清水先輩のお墨付きである。

 また、フェイントをかけて左フックやストレートを出してくることもするテクニシャンである。以前マススパーをやったとき、フックを食らって耳の奥がガーッと熱くなったことを良く覚えている。これは手ごわい戦いになると覚悟した。

 ところが、である。この日の寺崎さんはいつもと違って動きが良くなかった。完全に覚えているわけではないが、私が押し込んでいける場面もあったと記憶している。

 もっとも最後の最後の場面で組み合ったときは倒されたのだから、偉そうなことは言えないが…。

 いずれにしても、普段の寺崎さんであれば、こんな感じの戦いにはならなかったと思う。あとから伺うと少し緊張されていたとの由。

 寺崎さん、またマススパーで揉んで下さい!

 これでなんとか2試合が終わった。だが、当初の計算は変わらない。これは4人と戦うのは確実だ!と気合を入れなおそうとするが、体はかなり疲れている。やはりマススパーとは違う。ただ、基本ルールのときのような、体幹がぼろぼろになるような感覚はないのは救いだった。

 いよいよ、昇段組の先輩方が上がってきた。予想通りだろうか? どきどきしながら待つと、私は他支部の先輩の最初の相手として指名された。

【三の壁 ●●先輩】
 相手となった先輩は、短い呼吸をハッハッと繰り返して、闘志をみなぎらせている。見るからに怖い…。私は既に気おされている。

 先輩の闘気を音で表現すれば「ゴゴゴゴゴゴゴオ!!!」、
 かたや私は「ヘロヘロヘロヘロ…」

 試合が始まった。これは正直よく覚えていない。断片的に覚えていることを述べていく。

 まず印象に残っているのは、左のフック気味のパンチで吹っ飛ばされ効果1を献上したことである。1mくらい後ろに吹っ飛んで、和太鼓の隣の正面の壁にぶつかった。これは、結構痛かった。

 その様子を見ていた村上先輩は、後から言った。

「門間さん、まっすぐ入りすぎですよ!」

 次に覚えているのは壁際に押し込まれ右ひざ蹴りを食らったこと、そのときに右アッパーを先輩がしきりにだしてきたことだ。
 
 右ひざ蹴りはがっつりもらったが、これはこっちも足が見えていたので、うまく耐えられた。

 このとき主審だった高松先輩からは、相手の膝蹴りに合わせて脚払いするという技を教えてもらっており、とっさにそれはひらめいていたのだが(それだけでも私にとっては大進歩だ!)、うまくできなかった。右アッパーはうまくガードしていたので食らわなかったが、後から思い返すとあれが1発でも当たっていたらやばかった。

 全般的に見れば、私がやった全試合のうち、この試合は押し込まれる一方の試合で、パンチで取られた効果で負けてしまった(こちらの先輩は結局4勝4分の負けなしという堂々たる戦績で昇段された)。

 終わってみると右顎を中心に顔がかなり痛くて、しんどかった。隣にいた植竹さんには、「次の指名があるまで痛みが続いていたら、お願いして降りさせてもらうことにする」とまでこぼすほど痛かった。

 実は、今でも顎が痛くて口を完璧に開くことができないし、ものをきちんと噛めないでいるほどだ。

 こちらの先輩には審査が全て終了してからご挨拶に行ったが、最初の時の印象とはまったく違って笑顔で挨拶を返してくれるいい人だった。

 先輩! 機会があれば、またお手合せください!(ただしマススパーで…)

【四の壁 太田先輩】
 そして、次の試合は…、太田先輩だった。これは全く予期していなかった。

 体型は異なるが、もしかするとビジネスマン体力指数(私は175+69-42=202)からすると、案外釣り合いが取れていたのかも知れない。

 太田先輩の強さは稽古を御一緒しているからよく知っている。やばい、と思ったが当初予想していた杉本先輩であれ村上先輩であれ、私にとってやばい相手であることには変わりないのだ。やるだけである。

 不幸中の幸い?は、顎の痛みが何とか戦える程度まで回復していたことと、私は太田先輩の顔面3番目の相手だったということである。

 この辺は1番目の相手をした後の組手は3番目というように松原先輩が配慮してくださったのだな、と感じた。おそらく2回の昇段組手とも1番目の相手をさせられていたら、1回目はともかく2回目の組手の時点で、こちらは4戦目、太田先輩は元気いっぱいの初戦ということになり、非常に厳しい結果となったと思う。

 このような形で安全に配慮していただけるのは、ビジネスマンクラスにとっては非常にありがたいことである(松原先輩、これからもよろしくお願いいたします)。
 

 私の番が来たときに、既に寺崎さんや植竹さんと戦っていた太田先輩は確かに疲れていた。相対してみると左フックを狙っていることはすぐわかった。

 正面はほとんど空いていたので、前蹴りや横蹴りを出しつつこっちも殴りかかっていった。これは村上先輩が以前くれたアドバイスによっているところが大だ(もちろん松原先輩も日ごろご指導されている点であるが…)。

 太田先輩はうなり声を上げながら左フックをぶん回してくる。一発でも当たったら、さっきの顎に受けたダメージが増幅して、これまたやばいことになる。絶対に避けねばならなかった。幸い当てられずに済んだ。

 試合は結局引き分けであったが、私にとってはこれで十分だ。

 太田先輩はその後も、基本ルールと寝技をしのぎ切った。

 温厚でいてファイティングスピリットに溢れ、しかも歌がうまい太田先輩、やっぱりあなたは強かった。これからもご指導をよろしくお願いします。

 4試合を終え疲労困憊の門間・植竹コンビはびくびくしていた。まさか、まだ試合なんてことはないだろうなあ…。

 東先生の「整列!」の声を聞いたときには、本当にホッとした。これ以上「死合って」いたらどうなっていたことか…。

 とにもかくにも、激闘が終わった。私にとっても、皆にとっても…。

 16時から始まった審査は19時過ぎに終了した。受審人数を考えたら、しごく順調と言えるのではないだろうか。しかもうれしいことに、昇段審査の先輩は全員が、合格!!
 
 色帯組も自分たちの結果はまだわからないが、みな自分のことのように喜んでいる。
 
 その晩は、さくらで楽しい飲み会となった。

★次回は、他の方々の激闘ぶりや気づいた点を、私が見ていたごく少ない範囲ではありますが紹介します。

ああ、それにしても今日も休日出勤で10時から17時まで会議…。それなのに徹夜してるオレって… 🙁

ま、いいか 😀  2時間くらいは寝れるしな。