第19話:The 黄帯
【その1】
先日夜、勤務帰りに自宅近くのスーパーに寄ったときのこと。60歳過ぎのよれよれ短パンをはいたご老人(以下、「ご老人」と略称。あるいは「短パンジジイ」でも可)が私の前でレジに並んでいた。
ところがこのご老人、会計の時にレジ係の操作ミスで高い金額が提示されたことに激昂。レジ係の20歳前後の女性にクレジットカードはぶん投げるは、会計が済んだら済んだでカードをひったくるは、怒鳴りちらすはで、それはひどい態度だった。
ご老人の後に並んでいた私はそれを暗澹たる気持ちで見つめた。若者に範をたれるべき老年層がこれではいかんとため息をつきつつ、私は紳士たるべく笑顔で「ありがとうございます」と会計を済ませていたのだが…。
くだんのご老人はまだ怒りながら、レジ袋に品物をぶち込むように詰めて、買い物カゴをたたきつけんばかりの勢いで帰っていこうとした。ところがあまりに怒っていたためか、レジ袋にぶち込んだつもりのレーズンロール6個入り158円を床に落としていることにも気づかない。
そんなご老人に対して、私はできるだけ優しく笑みを浮かべながら「品物落としましたよ」と声をかけてあげた。私は博愛主義者なのである。
すると、このご老人、くるっと振り向くと、私を睨みつけながらレーズンロール6個入り158円を拾い上げ、礼も言わずに私の前を横切ってドカドカ立ち去ろうとするではないか…!
ここで諭してあげなければ、このご老人は今後もおなじ間違いを犯しかねないとの危惧と、それでは老い先短いこの人のためにはならないとの憐憫の情とを抱いた私は、丁寧に表現を選びながら控えめに感想を述べた。
「おい、おっさん! 騒いでんじゃねえよ!!」
ご老人は一瞬ぎくっとした顔で私を見つめたが、非礼を詫びることもなく足早に去っていった。
私の簡潔ながらも真心を込めた説諭はご老人の心には届かなかったのだ…。無力感に苛まれた私は、帰宅するや妻に事の顛末を話して世の無常を嘆いた。
すると妻は、
「やめなよ、そんなこと。殴りかかってきたらどうするの」
と私の身を案じてくれる。私は妻を安堵させるべく緊急時の対処法を簡潔に述べた。
「そんなジジイは返り討ちだ!」
するとさらに妻は、
「やめなよ、まだ黄帯なんだから…」
😮
【その2】
我が家の次男坊、領華(エリカ、4歳)との対話
エリカ「パパ、黄帯って長く使えて便利だね!」
私「え? それはどういう意味(やや動揺)? 黄帯がきれいでいいねってこと?」
エリカ「ううん。緑の方がきれいだよ。まだ緑にならないの?」
😮
【その3】(おまけ)
私「エリカ、お前も空手やるか?」
妻「でも、空手って言ってもいろいろあるよねえ。どんな空手がやりたいのかな?」
エリカ「はみだし空手!」
😮
はみだしすぎた空手を「空道」という…。
★すべて実話です。
ディスカッション
コメント一覧
深草宏之@吉祥寺支部
ははは。
僕も小学2年生の下の娘に「パパ黄帯なんだよねー。
同じクラスのナオキ君(仮名)は緑帯なんだよ~。クスッ :-)」 って鼻で笑われたことがありました。
お互いがんばりましょう。
植竹孝幸
門間先輩
いゃー漢(おとこ)ですね。そんな、礼儀知らずの
じじぃには喝を入れてやりましょう。自分としては
そんな礼儀知らずのじじぃがレーズンロールを取りに来たらステップ・バックで礼を言うまで返しませんね。
ちなみに、じじぃが転んでも手を添えられるぐらいの
ステップ・バックですよ。
所@ひよこ6号
門間先輩、ご家庭の黄帯ネタ面白すぎます 😀
オフィスのデスクでニヤニヤしてしまいました(^^;
しかしご子息は、はみだし空手を読まれているのですか?
4歳にして、はみだし空手・・・
さすがです!!
エリカの父@総本部
深草さん:
子どもって、親を茶化して喜んでいるところがありますよね。年末の審査でがんばるぞ~。
植竹さん:
全く腹の立つジジイ、ではなくご老人でした。
でも、ああいう手合いを相手にしているときは、こちらが精神的にも肉体的にも相手を制したとしても、心情的には不愉快なだけで、武友との殴り合い、蹴りあいをした後の爽やかな感情の交流がないんですよ。
所さん:
どうやらエリカは、書斎の床に平積みにしていた『はみだし空手』の表紙を見ていたようです。
ああ言われた時は、ほんと大笑いしました。
Re: エリカの父@総本部
これまた笑わせていただきました~。 😀
似た話はウチの道場にもありますよ~。親子で入門していて、お父さんが白帯、息子さんが紫帯の例。
あるとき、息子の道着が小さくなったのに気がついたお父さんが新しい道着を買ってあげました。するとその新しい道着の袋の中に白帯が付いていたのを見て、息子さんが一言「お父さん、これあげる。僕は紫帯だから、もういらないから」。
更にその息子さんが突然「試合に出たい」と言い出しました。ウチの少年部は試合向けの練習は一切やっていません。その子自身も運動神経がいいとは言いがたい子です。はっきり言って無理です。何とか試合をあきらめさせようと思ったお父さんは言いました。「お前な~、試合って大変なんだぞ~。すごく苦しいんだぞ~。ものすご~くでっかくって強い怪物みたいな相手が、本気で殴ったり蹴ったりして来るんだぞ~。練習とはレベルが違うんだから」。それを聞いた息子さんが一言「僕はお父さんと違って紫帯だから大丈夫だよ」。
どっちも心が折れそうなくらい傷ついたそうです。:-D
門間理良
渡辺支部長:
これも悲惨ですねえ 😀
気持ちとしては、
_| ̄|○
というところでしょうか。
この方には、「同志」は少なくないことを
お伝えいただければ幸いです。